世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹


 不思議な作品だった。訳が分からないまま読み進めさせる力があるのは凄いと思う。上巻の初めの方は読むのを止めようかなと思っていたはずなんだが、途中から色々な真相がわかるにつれて引き込まれて、そして、最期には何だか良く分からなくまたなってしまう。混沌から始まって、整理され始めて、混沌に終わるような印象。

 wikipedeiaによると「村上はこの小説を自伝的な小説であると位置づけている」ということらしい。そう思うと、丁度今話題になっている「壁と卵」の話しの「壁」というのは世界の終わりにある「壁」と同じ物なのかもしれないな。

 正直なところ、この作品が素晴らしいのかどうかは分からない。引き込まれた「何か」と自分の中に澱としてのこっている「何か」はある。しかし、この作品が好きかと聞かれると答えに困る。

 村上春樹という作家を、おタキさんに勧められるまで私は一度も読んだことがなかった。おタキさん的には私の文章を読んで、私は村上春樹厨に見えたらしい。だから、一度も読んだことがないと言われて驚かれた。これでいままで、海辺のカフカ羊をめぐる冒険、ねじ巻き鳥クロニクル、そして、本作品とノルウェーの森以外の代表作は大体読んだ。どの作品も良かった悪かったということとは別の次元で感性に訴えかける何かはあった。そういう意味で、村上春樹は私にとって娯楽ではなく文学なのかもしれない。

 好き嫌いとは別の次元で、村上春樹という作家は私にとって「特別」な何かなのかもしれない。