信楽の撮影のこと

 もう8年ぐらい、信楽のあるギャラリーで展覧会の撮影の仕事をさせて頂いている。そのおかげか信楽焼を買い求める機会も多く、身の回りで使ったり人にあげたりしている。

 前回の展覧会は、作家さんが持ってこられた作品の3割は駄目出しをされて持ち帰りをさせられていた。新たに別の作品を後から作ってこられたようだ。当然生き残っていくことは難しい世界だろうから言われるだけマシなのだろう。

 作家さんによっては、社長から私に今回の撮影は中止との連絡があって撮影すら無いこともある。前回はこっぴどく言われていて中止になるかと思ったけれどそれは無かった。あの後どうなったのかこっそり聞いてみたら、あの後持ってきた作品は良かったよ、あれが何かの切っ掛けになったらしいとのことだった。

 作家さんが帰った後、そのときの展覧についてのことを色々私は聞いている。私に話しているのか、それとも独白に近いのか、話されていることは非常に感覚的なことなので私にはよく分からない。作家さんがおられるときも釉薬やろくろについての専門的な話をよくされている。

 私はよこでや、時にはうなづきマシーンの役割でその話を聞いている。私は、分からないことだらけなのだけれど、決して説明を求めない。普段ならそれはどういう事ですかとか、単語の意味を聞いたりするのだけれど、多分私に話している訳ではないと感じるから一対一でも聞かないことにしている。

 それでも、門前の小僧ではないけれど、8年もその話を聞いていると色々わかることもあるし面白い。何人かの作家さんとも親しくさせて頂いているしその方々の話を聞くのも面白い。今日はたまたま見込みがある人がどの作家さんかという話が出ていて横で聞いていた。

 3人の作家さんの名前が出てきた。一番トップに上がってきた方は凄いのだけれど、素人目にはすごさは分からず分かる人は分かる凄さだという。ただその凄さが分かる人は残念ながら作品を買う層では無いのが残念だとも。そこをどうやら乗り越えないといけないらしい。面白い話だ。

 二人目の作家さんは私が大好きな人だった。私が買っている作品の6割、自分が使っている作品の8割はその人のだったので何となく納得した。手で触ったときの収まり、色合い、長期間飽きが来ない形といい絶妙だと思う。

 三人目の作家さんはポー助君の同期。それはポー助君の日記をみて知り合いだと知ったのだけれど、その方が個展をやるずっと以前に、一つの飯碗が事務所にサンプルとして置かれていた。私はその飯碗に惹かれて、これはどなたの作品ですかと聞くと当時はまだ本当に駆け出しでその人のサンプルだよと聞かされた。よく分からないけれど惹かれる何かがある作品だったのを覚えている。その後個展をされて、その時の同型のものをポー助君の日記で見たときは驚いた。面白い縁だなと思う。残念ながらその方とは撮影の時にタイミングが合わずに本人にお会いしたことはない。

 正直なところモノの善し悪しは私には分からない。酒と同じで、私が好きなモノとそうでないモノは確実に存在する。私はそれを楽しんで陶器をみて財布と相談できればその一期一会の出会いを楽しんでいる。工業製品と違ってひとつひとつ表情が全然違う。そこで手に入れなければ二度と同じモノと出会うことはない。それが本当に楽しい。