冷蔵庫のモーターの音だけ響く

 From さよならバレンタイン。何となく部屋に大量にあった時計の電池を全て外してみた。多いときは部屋に5個ぐらい時計があったのだけれど。布団に入ると秒針の音がオーケストラのように響き渡っていた。

 冷蔵庫の鳴動が止まって静かになると、たまに裏通りを通る車の音以外なにも聞こえなくなる。PCの電源を完全に落として、ルーターの電源を落とすと部屋に闇と静寂が広がる。光は入らないけれど自分の心音だけは消すことは出来ない。

 ねじまきどりクロニクルを読んでいて、井戸に入る主人公の気持ちが分かる。そういった深い何かの中に入っていると、自分自身が浮き彫りになる感覚がある。たまにそんな中に身を置きたい衝動にかられるのだ。

 小さい頃、家が古いこともあって、至る所に闇があった。夜ひとりでトイレに行くときにその闇に怯えた。風で建て付けのわるいガラスが鳴り、人の気配をどこからともなく感じる。背筋になにかが走る。そして走って部屋にもどり、布団に潜り込んでいた。

 闇を恐れるのは、引きずり込まれそうなその黒の中に自分自身を写すからなのか。だからこそ自分自身に向かい合いたいとき闇を望むのかもしれない。