ヴァイオリン

 縁があって、週末に徳永二男さんのコンサートに行って来た。徳永さんは私たちの世代でいえば、交響曲ドラゴンクエストNHK交響楽団が演奏したときのコンサートマスターだった方だ。

 使用されるヴァイオリンはストラディヴァリとならぶ三大名器のグァルネリということで、駄耳で違いは分かるかどうかは別として、話を聞いたときからずっと楽しみにしていた。

 週末仕事を終えて会場へ向かうも、とんでもない吹雪で遅刻したかと思ったのだけれど、会場の照明の調子が悪くそのおかげで滑り込みで演奏前に会場に入れた。仕事の関係で時間がぎりぎりになってしまい主催者の方に心配をかけることになったのが心苦しかった。

 詳しくは私も知らないのだけれど、そもそもヴァイオリンは室内演奏用とコンサート用で作りが少し違うらしい。いわゆる名器と呼ばれているようなヴァイオリンは室内演奏用でコンサートホールで使うのには不向きらしい。ということで、今回のような機会は多分今後ほぼ無いので、できるだけ先入観を消して楽しもうと思っていた。

 結婚する前は、幼稚園の同期がヴァイオリニストだったのでちょくちょくコンサートに行っていた、結婚後疎遠になったので以前にくらべるとクラシックに直接触れる機会が随分と少なくなっていた。さすがにCDと生演奏は比べられないので、室内音楽の大体の感じはその時の記憶と比べるしかない。

 会場での席は、非常に良いところに座らせて頂いた。ピアノとヴァイオリンの音のバランスも良く、徳永さんの演奏も前の人の間から非常によく見えた。私の後ろの方がちゃんと見えているか非常に気になったが、極力ちっちゃくなって見て貰いやすければなぁと考えていた。

 演目も多彩で、様々な音色の曲が演奏された。この一つの楽器からこれほど多彩な音が出せるんだと感動した。色々なことを頭によぎらせながら、徳永さんの演奏に聴き入って見入った。目が切れない。曲が進むにつれてボルテージがどんどん上がってくる。アンコールが2曲あったのだけれど、そのうちの1曲は非常に珍しく、譜面は多分殆ど存在しないという。そして非常に難しいけれど綺麗な曲という紹介があった。

 戯曲をコンサート用に書き直したもので「キンケイ」と徳永さんは仰っていたが、金鶏だろうか鳥のことなのは確かだけれど漢字はわからない。エネルギッシュでかつ綺麗な曲だった。多分もう一度聞くことは無いのだろうけれど、忘れることは無いだろう。曲の最後の方でしらずしらずの間に、手でリズムを追っていた。

 帰りにCDを買ってサインをして貰った。CDは確かに音質では生演奏には到底及ばない。ただ、私は自分が今日聞いた演奏の記憶を思い出すための呼び水として買った。素晴らしい事に人は記憶を思い出して楽しむことができる。記憶の呼び水さえあれば、また何度でも余韻を楽しむことができるのだ。