ナンバ

 最近、ナンバについて考えている、といっても大阪の難波ではない。ナンバ歩きのナンバだ。陸上の末續慎吾などが採用したりして一時期話題になっていた。これは古武術研究家の甲野善紀が井桁崩しの原理として提唱している武術的な手法の一つである。

 何故急にこんなものに興味を持ちだしたかといえば、最近おこなっている剣道稽古の一環である。

 中学生のころから、力任せの勝手な剣を振り回してきた。そのせいで私の面打ちはひどく大きなモーションで、かつ動きが遅い。まぁ言ってみればとても実戦向きでは無かった。

 いわゆる薪割り打ちといわれる打ち方で、防具の上から打ち込んで相手を骨折させるほどひどい打ちだった。高校時代も稽古はそれなりにしていたが頭を使っていなかったので本質的に何も変わっていない。

 自分でやっている分には気が付かないが高校時代に「文明の利器ビデオ」で自分の打ちをみたときは「なんてオーバーモーションなんだ」と思った。思っただけで改善されていないのが情けない所だ。最近また稽古を初めるにあたってそれらを見直そうと考えたのである。

 とはいえ再開した直後はそこまでも考えてはいなかった。きっかけはぶらりとよった図書館でみた剣道日本だった。高段者の竹刀の握りが解説されている記事を読み「そういえばがむしゃらに稽古したりはしたけれど、あまり論理的に剣道を考えたことがないな」という事実に気が付いた。

 そこは貧乏人、まずweb上で何か良い稽古や理論を解説しているページは無いかと探してみた。しかし、稽古方法は写真や動画がないと実際正しい動作がわからない。そこで調べたページで進められている本を一冊買ってみることにした。

 それが「剣道上級者の打ち方を身につける方法―一流選手の打撃メカニズム」だった。まぁ身に付かなくても理屈を知っておくのも良いだろうと思い購入。DVDもついておりわかりやすい内容だった。

 というよりも自分が今までやってきた動作が全て否定される内容が書かれていた。これを高校時代に知っていればと思う内容ばかりだった。

 ただ、この本も手の内をメインとした、腕の使い方についてはかなり勉強になったが下半身については、あまり触れられていなかった。

 1月頃に購入して一ヶ月間は手の内の改良を毎日心がけた。平均して1日500本以上の素振りをするようになって、さすがに一ヶ月もするとヘボなりにも稽古で成果を実感できるのである。

 調子に乗ってその稽古を延々と二ヶ月続けていたのだが先述の通り腕に偏った稽古をすると全体としてのバランスが悪くなってくる。高校時代の友人と行った稽古で手打ちになっていることを指摘され、下半身を使うことを加えた本格的な稽古をしないといけないと痛感した。

 そこで図書館にいって出会ったのが「剣士なら知っておきたい「からだ」のこと 」という本だった。これは主に二軸歩行(いわゆるナンバ歩き)などを剣道の足裁きに応用するという話の本だった。

 そこで初めて筋力で動くのではなく、筋力を補助として重力を利用した運動というのを知った。そこに書かれている方法を実践してみようと試みると、今まで自分が不満に思っていた体捌きがかなりスムーズに行くようになった。

 剣道の打ちに関して言うのなら起こり(打ちの始まり)が相手に察知されなければされないほどよい。今までは力をタメて解放するというのが普通だと思っていた。しかし、タメは予備動作になるので打ちが遅れる。

 私の今までの感覚ではタメが早く出来ないのは筋力が単純に足りないせいかと思っていた。この認識自体が既に誤りだと言うことが本には書かれていた。本には力を入れることよりむしろ抜く事によって、バランスの変化から重心が重力によって移動することを利用する方法が示されていた。

 最初は全く理解出来なかったが、色々試行錯誤するうちに感覚がつかめるようになってきた。バランス良く脱力ができると今まででは考えられない動きが可能になった。ここで最初に買った本に漠然と書かれていた下半身の動きの文言がやっと理解できた。

 知ることと出来ることは全く別のこととはいえ、目指す指標が出来たのは非常に楽しいことだ。

 今回のことで痛感したのは、自分の体を動かすという一番基本的なところで失われた技がまだまだ沢山あるのだという事を思った。いわゆる達人といわれた人達(塩田剛三など)の何だかわからないもの一端はこういうところにあるのだとふと思った。