初心者

 いわゆる酒初心者のはなし。まぁちろっと戯れ言を書いてみよう。

いわゆる「初心者向け」のシングル・モルトというものは存在するのだろうか?
実は僕はそのことに対して甚だ懐疑的だ。

飲み易いことは「初心者向け」だろうか?
クセがなければ「初心者向け」だろうか?
例えばそれは、グレンフィディックなら良いだろうか?
僕はそんな風に思わない。

スタンダード18 2008年度版(6)-モルト侍

 私も、回りに酒飲みと思われているのか、よくバーに連れて行ってとかどうすれば良いだろうとよく聞かれる。まぁそんな話しも含めて自分の考えを。

 まず、初心者という定義が思っているより沢山ある。

 1,酒そのものに初心者、あまり酒を飲んだことがない。
 2,蒸留酒の初心者、日本酒や焼酎ぐらいは飲むけれど40度オーバーの酒はあまり飲まない。
 3,シングルモルトの初心者、バーボンやウォッカは飲むけれどシングルモルトは良く知らない。

 この三つのどれかでもえらく前提が変わる。飲みやすいとか癖がないというのが初心者向けというのは、明らかに1か2を対象にしている。そして入口という意味ではそれは正しいのでは無いだろうか。今まで低度数の酒を飲んできた人達にとってアルコールの感じ方は、思っているよりきつい。特に口への含み方など基本的な所になれていないと味以前にアルコールに負けてしまう。まぁ冷静に考えればそういう人には、水割りを勧めることになるのだろうけれど。

 2、3番の人には普段何を飲んでいるか聞いてみれば大体系統が掴める。2番は好みの傾向で口当たりの良いもの、3番の人は初心者用というよりも好みだけを聞けば全く問題ないだろうと思う。

 蒸留酒を楽しむことは、アルコールと味や香りのバランスを楽しむことだと思う。その際のアルコール度数の壁は以外に大きい。提供する側もそうだし提供される側の飲み方(口への含み方、飲み込み方)などでも随分と変わってしまう。その前提ができているかできていないかも楽しめるかどうかの大きなファクターだろう。

 まぁ当たり前だが、私がお気に入りのバーは、初めて行ったときに会話によって大体その辺りを判別してくれようとしている。そして、私はその酒を通じたコミュニケーションを楽しみにバーに行っているのだ。それが酒の価格に乗せられた一つの付加価値だと思っている。

 バーという空間にどんな付加価値を求めるかは、場の雰囲気を壊さない限り客の自由だ。私のように酒との出会いを求めるのも一興だし、場の雰囲気で普段の疲れをとるのも良いし、迷惑にならない程度に友達や同僚と楽しむのも良いと思う。良い店はシーンに合わせた対応をしてくれるものだから。そして、その原点はやはり自分が楽しんで対価を払うことだろう。至極当然だけれど。

 だとしたら、自分が初心者だと思っている人たちはもっと気楽で良いと思うんだ。強い酒を楽しむのに知識がいると思っている人が多いみたいだけどそれは誤解だよ。私が酒に詳しいと思っている人たちもいるかもしれないけれど、それも誤解だよ。どの酒であってもそれほど銘柄を知っているわけでもないし、テイスティングなんて問題外にできない。

 だから、私は自分が酒を人に教えて欲しいといわれたときは、自分がどうやって酒を楽しんでいるかという楽しみ方を話すようにしている。重要なのは「飲みたい酒を知っている」ことじゃなくて「飲みたい酒を飲めるようにする」こと。結果として知ってしまうことになるけれど。知っていたから飲んだのではなく、飲んだから知ったのだ。

 知ることが楽しくなれば調べればよいし、ただ提供される物を楽しんでも良いと思う。逆に言えば、初心者は一番楽しい時期なのだ、何を飲んでも目新しく全然分からないのだから。

 知らないことは別に恥ずかしいことじゃなくて、知ったかぶりのほうがよっぽど恥ずかしい。お酒の数は星の数で、お店にあるお酒はお店の人が一番よく知っている。だからお店の人にチョイスは任せるのが一番だと思っている。伝えなければいけないのは、自分がここで何をしたいかだけじゃないかな。それすら良くわからないぐらいの初心者だったら、もっと簡単に「私は酒を飲み慣れていないんだけれど、どういう楽しみ方がありますか」でも良いんじゃないかと思う。それに対する回答でお店が自分に合うかもわかるんじゃないかな。

 ちなみに、私がモルト侍を読んで、シングルモルトを飲みたくなって初めてのみに行ったのがL&Gというお店だった。池袋にはなかなかいけなくて残念なのだけれど、ここのマスターもシングルモルトが大好きな方だった。何を飲まれますかと聞かれたとき、「私は普段バーボンばかりで、シングルモルトは全然しりません。何から頼めば良いのか全く分からないので、スタンダードなものから順に飲ませてもらえますか、予算はこれぐらいを思っています」とお願いした。マスターと色々話をしながら次は何を飲もうとか、これはさっきと全然違いますねとかそんなたわいもない会話がとても楽しかった。そんな感じ。

 今まで飲んだものを振り返ってみると、スタンダード18に似たようなラインナップになっている。やはり抑えどころはみんな似たようなものなんだなぁと思ったりもした。ただ、私はそれを口頭のテクニックだけではなくて、スタンダード18というシステムにして分かりやすくかつ相当手頃な値段にした侍は相当すごいと思う。この規格が始まって1年たった今、18の中身が入れ替えが検討されもしている。続けるということは侍のなかで何か手応えはあったのだろう。私はこの企画を前にしてお客さんはどう感じて、侍は一年たったいまこの企画をやったことで何を感じたのかに興味がある。