かけた

 中学生のころに買った櫛の歯が欠けた。当時は丸坊主だったはずで、櫛なんて必要なかったはずなんだけれど、近所の散髪屋で静電気の起きない業務用の良い櫛だと聞いた記憶がある。

 今頃気がついたけれど、三菱製のバーバースペシャルと書かれている。良いものかどうかは分からないけれど、少なくとも20年近く使ったものが欠けると不思議な何とも言えない気分になる。

 歯が欠けた櫛は間抜けで、今まで感じなかった年代を一気に感じさせる。急に櫛が古いものに見えてしまった。しかし、私はこの櫛を買いかえるのだろうか。

 歯が一本欠けた櫛は、今までと何が違うのだろう。自分は櫛に何を求めているのだろう。自分がどうしたいのかイマイチ分からない。

 捨てたいの?もったいないの?気に入らないの?気になるの?新しいモノが欲しいの?とりあえずなんだかよく分からない違和感だけが体を支配する。

 そしてまた、ぼけっと欠けた櫛を見ながら酒を煽る。